仔犬たち

日記です

20230809

ちょっと前に「平成レトロ」というフレーズが物議を醸していましたね。

その善し悪しは置いておいて、自分が幼女の頃(90年代初頭です)に流行っていたようなデザインやモチーフを目にする機会が増えたのは確かです。パステルカラーのサンリオキャラ、オサムグッズ、雑貨屋の紙袋のファンシーな図案。私はそういったリバイバルを概ね好意的に受け止めており、街中で出会うと、懐かしさについ口元が綻んでしまいます。でも、中には幼少期のビターな思い出と深く結びついて、ちょっと切ない気持ちになるものもあります。

その一つが、フロッキー加工のマスコットです。シルバニアファミリーの他には長いこと見かけませんでしたが、レトロブームの文脈なのか、それ以外のキャラものから、昔売っていたような何でもない動物まで、フロッキー加工された商品を時折見かけるようになりました。誰かがアップロードした商品画像を見るだけでも、あの細かな起毛の独特な手触りが思い出されます。可愛くて懐かしくて、たまらない気持ちになります。

30年前、5歳かそこらだった私も、フロッキーマスコットを見てたまらない気持ちになっていました。

それは、親指ほどの大きさの、イルカのキーホルダーでした。家族で行った旅行先の、宿の売店でのことです。それがどこだったかはもう覚えていませんが、少なくともイルカに関係のない場所だったことは間違いありません。

両親がお土産のお菓子か何かを見ている間、一人で店内をうろついていた私の心は、小さなイルカに射抜かれてしまいました。やさしい桃色のからだ、つぶら黒い瞳。欲しくて欲しくてたまりませんでした。

これ買って、と母親に頼むべきだったのに、なぜそうしなかったのかはあまり覚えていません。旅行先とまったく関係のない、明らかに役に立たないものを欲しがることを、幼いプライドが許せなかったのでしょうか。気づいたら私は、そのイルカをぎゅっと手のひらに押し込めて、ポケットに突っ込んでいました。

私の悪事は、あっけなく明るみに出ました。帰りの車中で、首尾よく手に入れたイルカを掌に乗せてしげしげと眺めていたら、「ちょっとあんた、それどうしたの」と母親から指摘されたのです。私は愚かにも、嘘をつきました。「もらった」とでも言っていたらまだ可愛げがあるような気がしますが、あろうことか、「お金の概念がない、悪いことをしたという自覚のない無垢な子ども」のフリをしてやり過ごそうとしたのです。当然、親にそんな嘘が通用するはずはありません。私はこっぴどく叱られました。

どういう風に怒られたかとか、私の心を惑わせたイルカのマスコットがどのような運命を辿ったのか、そういったことは残念ながらよく覚えていません。ただ、小狡い嘘をついてしまったという恥の記憶が30年経った今でも心の底に澱のように沈殿しており、フロッキー加工のマスコットを見るたびに小さな痛みが舞い上がるのです。